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【細野真宏の映画対談】スタジオジブリ・宮崎吾朗監督
2006/7/27
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| 宮崎吾朗監督
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スタジオジブリ制作の映画『ゲド戦記』が29日、全国東宝系映画館で公開される。日本のアニメーション映画の第一人者、宮崎駿(はやお)監督の長男、吾朗氏が初めてメガホンをとった作品だ。ミリオンセラー経済本の著者で、映画でも新進評論家として名をはせる細野真宏さんが吾朗監督の公開直前の心境に迫った。
■「宮崎アニメ」のこれからは
細野 アニメーション映画の制作というのは、熟練による知識と経験がモノをいう仕事なので、常識的には初監督でここまでクオリティーの高い作品はできないと思います。やはり最初から、相当、自信があって監督を引き受けたのでしょうか?
≪始まる直前まで 監督はイヤだと≫
宮崎 いえ、全然、自信はありませんでした。現場が始まる直前まで「監督をやるのはイヤだ」と思い続けていて、社長の鈴木(敏夫プロデューサー)には、「いいかげんに観念しろ!」と言われ続けましたね。
細野 なるほど。では、映画を作り終えて、ご自身で作品を見て、改めて自信のほどは?
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| 「ゲド戦記」 (c)2006 二馬力・GNDHDDT |
宮崎 このまま公開してくれなければいいのにと思います。映画を作っている間は、「お客さんが見る」ということをあまりリアルに意識していなかった。それが初号試写のとき、関係者だけで百数十人の人が一斉にスクリーンを見たわけです。それを目の当たりにして、これから実際にいろんな人がこうして見るんだと思ったとたん、「自分はいったい何を作ったんだろう」という思いにかられました。
細野 でも、作っているときから、「映画を見せたい」という思い、「メッセージとして伝えたい」という気持ちは、あったわけですよね。
宮崎 ええ、それはもちろん、こういうものを作りたいというのは強くありましたね。ただ、それが完成して、お客さんにどう受け入れられるのだろうとか、何を感じてくれるのだろうと思ったら、それはやっぱり、恐ろしいことです。平気でいられる監督なんて、たぶん、いないんじゃないですか。
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| 細野真宏氏 |
≪僕がやったのは“建設現場の所長”≫
宮崎 確かにそうかもしれないけれど、やはり、現場があっての監督であって、映画だと思うのです。だから、もし称賛を頂けるのなら、映画にかかわった人たちすべてに対してだと受け止めます。ぼくはかつて、建設業界にいたのですが、世にある多くの建物は誰が作ったのか匿名ですよね。結局、そこには膨大な人がかかわっていて、設計する人もいれば、ただ土を掘るだけの職人さんもいる。その誰が欠けても成り立たない。だからみんなで作ったものであって、決して、著名な建築家が「私が作りました」と言う類のものじゃないと思う。映画もそれと同じだという感覚が、ぼくには大きいんですよ。建設現場と何も変わらないと。つまり、ぼくは「建設現場の所長をやっただけ」なのだと思います。
細野 なるほど。確かに「みんなで共同で作り上げるもの」という意味では映画と建築物は同じ物ですよね。ただ、ぼくは個人的には、映画と建築物は「自由度の大きさの違い」と、鑑賞するために作られるなどの「目的の違い」などを考えると、やはり監督の役割の重要性は違うものだと考えています。
さて、『ゲド戦記』についてですが、基本的にはこれまでの「宮崎アニメ」と変わっていなくて、もしも事前にインフォメーションがなければ、いい意味で多くの観客が宮崎駿監督、吾朗監督という区別なく「あ〜いつもの宮崎アニメだ」という感想をもって受け入れられる作品になっていると思います。ただ、細かく言うと、『風の谷のナウシカ』のころに戻った感じがしました。これまでの「宮崎アニメ」は、技術の進歩などにともなって、作画が作品を追うごとにどんどん細密化していました。ところが『ゲド戦記』を見て驚いたのは、かなり絵をシンプルにして、アニメの「原点」みたいなところに方向性を定めたのかなという感じがしたのです。これは、まさに宮崎吾朗監督ならではの方向性だったと思われるのですが、いかがですか?
宮崎 そう、それはあります。絵作りにしても、「もうこれ以上はいらない」という感覚があるのです。アニメーションの技術レベルが上がり、制作にかけるお金とか期間がどんどん大きくなって、監督たちも経験を積んで、前作よりもさらに上へ上へと向かうわけですよね。積み上がってきたものは確かにすばらしい作品だけど、たとえば教会建築でいうとバロックにまで行き着いたと、ぼくは思いますね。世の中、そういうものが多すぎる。もっと素朴で力強いものをやりたいと思ったのです。
細野 そういう考えがあったから、例えば登場人物の影の量が減ったりしていたわけですね。
宮崎 キャラクターの線や色数を減らすことや、背景でいえばリアルに緻密(ちみつ)に描き込むよりも、タッチの力強さで見せる。このように「原点」に返ることによって、作品の質を落とさず短期間のスケジュールを守って、作れるのではと考えたんです。
細野 なるほど。それも監督としては重要な仕事ですよね。
宮崎 ただ実はスケジュールだけではなく、『ゲド戦記』だからこそ「原点」に返る必要性もあったのです。『ゲド戦記』は、「言葉が重要な原作」なので、そのせりふが観客に届かなければ意味がない。映像がすご過ぎたら、それに気をとられて、大事なせりふが耳に入らないということが現実に起きるんです。ですから、画面をシンプルで力強くし、そのぶん、せりふをしっかり伝えたいと思いました。
細野 この作品については、まさにその試みは成功だと思いますが、そのようなセンスといい、これだけの映画を作れた背景には、監督が育った環境も影響しているのではと思います。お父さんだけじゃなく、お母さんも第一線のアニメーターとして活躍されていましたよね。
宮崎 ぼくが監督をできたのは、全然違う仕事での経験があるからだと思います。例えば、ジブリ美術館の館長をやったことです。自分がトップに立ち、いろんな職種・職域の人と付き合い、一つの美術館をつくる体験をしたことが何より大きい。
細野 なるほど、むしろ「経営者」の経験が重要だったのですね。いろんな工程を積み重ね、さまざまな部門と調整し最終的に一つのものを作り上げた経験で、映画も同様に作られた。
宮崎 そうです。ぼくにとっては、建物を建てることも、映画を作ることも、自分の中では大きくは変わらないんです。
≪CGより豊かな手書きで勝負を≫
細野 近年アニメーションはコンピューターグラフィックス(CG)が普及することによって実写に近づき、押井守監督の『立喰師列伝』などで実写とアニメの融合が試みられたりしています。また、米ピクサー・アニメーション・スタジオをはじめとして、世界の映画市場ではCGアニメが主流になっている。しかし、『ゲド戦記』は、そういう流れと一線を画すだけでなく、逆行し、改めてアニメの「原点」に戻った挑戦的な作品ですよね。
宮崎 根本的に「スタジオジブリがセルアニメーションを作っている会社だから」というのもあるのですが、ぼくは人の手で描いたセルアニメーションは、CGで作ったものよりもリッチだと思っているんです。人の手がかかっているというだけで、それは豊かなものです。セルアニメーションは、技術としては最新でないかもしれないですが、やはり変わらぬ良さをもっている。だったら、それで勝負しようということです。
細野 「見せ方」より、内容やストーリー、テーマの方が何より大事だということですね。
宮崎 そうだと思いますよ。ピクサーにしても、技術は最新かもしれないが、やっていることはものすごくオーソドックスです。良質な映画を作ろうという意志があって、ストーリーを大事にする。そこで彼らがとった方法がたまたま最新の3D(3次元)CGだったということに過ぎないんだと思います。
細野 さて、作品の中身についてですが、『ゲド戦記』を理解する上で重要な「真(まこと)の名」の意味と「作品のテーマ」についてお願いします。
宮崎 すべてのものには「真の名」があるというのが原作の設定です。「真の名」を知るものはそれを従わせ支配することもできる。そこで自分の「真の名」をみだりに知られぬように、通り名で呼び合うのです。そして『ゲド戦記』の重要なテーマは、すべてのものは個々に存在しているのではなく、世界の均衡(バランス)の上に成り立っている、ということ。たとえば1個の石ころを動かせば、反対側の世界で嵐を呼ぶかもしれない。だから力を簡単に行使して、均衡を動かしてはいけないというのが原作の訴えるところです。原作を読まれていない方で、映画が面白いと思ってくれたら、ぜひ原作も読んでほしいですね。
■「ゲド戦記」(29日公開)
物語の舞台は、多島海世界“アースシー”。西海域の果てに棲む竜が、突如、人間の世界である東の海に現れ、それと呼応するかのように、世界ではさまざまな異変が起こり始めた。世界の均衡(バランス)が崩れ、人々の頭が変になっていく…。災いの源をつきとめる旅に出た大賢人ハイタカ(真の名・ゲド)は、心に闇を持つエンラッドの王子アレンと出会う。アレンは父王を刺し、国を捨てたのだった。
原作は米国の女性作家、アーシュラ・K.ル=グウィン著『ゲド戦記』(清水真砂子訳・岩波書店刊)。『指輪物語』『ナルニア国物語』と並び称されるファンタジー文学の傑作で、宮崎駿監督のこれまでの作品にも大きな影響を与えておりかつて、同監督が原作者に映画化を打診したが拒否されたという経緯がある。それが、『千と千尋の神隠し』(01年)が米アカデミー賞を受賞するなど世界の映画界で高い評価を得たこともあり、4年前の秋、突然、原作者の方から話が舞い込み、映画化が実現した。
宮崎吾朗
みやざき・ごろう 1967年東京都生まれ。アニメーション映画監督・宮崎駿氏の長男。設計事務所勤務を経て「三鷹の森ジブリ美術館」の総合デザインを手がけるなどし、2001年10月から05年6月まで同館長。『ゲド戦記』の企画には、当初、オブザーバーとして参加したが、次第に制作の先頭に立つようになり、その手腕と才能を認めた鈴木敏夫プロデューサーに「美術館を造るにあたってオヤジの強権を跳ねのけた君ならできる」と説得され、アニメーション制作の初仕事で、いきなりトップに抜擢された。主題歌「時の歌」の作詞も手がけた。
細野真宏
ほその・まさひろ 経済本で日本初のミリオンセラーとなった『経済のニュースがよくわかる本「日本経済編」』(小学館)の著者。大学受験用『数学が本当によくわかる本』(小学館)は200万部を突破。最新著の『世界一わかりやすい株の本』(文芸春秋)も“日本一売れている株の本”となっている。最近は映画評論でも活躍がめざましい。
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