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【細野真宏の映画対談】オダギリジョー主演「転々」監督・脚本

2007/11/8

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 社会現象を巻き起こしたテレビドラマ「時効警察」シリーズの三木聡監督×主演オダギリジョーのコンビによる映画『転々(てんてん)』が10日公開される。三木監督がこれまでの作品とはひと味違う新境地を開拓した注目の映画だ。ミリオンセラー経済本の著者で映画でも新進評論家として活躍する細野真宏さんが、進化を遂げる三木ワールドの神髄に迫った。


細野 まず、僕は『転々』を見て、お世辞抜きで本当に素晴らしい作品だと感じました。コメディー映画史上に確実に残って語り継がれるだろう名作だと思います。三木監督ご自身は、これまでの『イン・ザ・プール』(2005年)や『図鑑に載ってない虫』(07年)などと比べて、出来具合をどのように感じているのでしょうか? 

 《みき・さとし》1961年神奈川県生まれ。構成作家として「ダウンタウンのごっつええ感じ」「タモリ倶楽部」「トリビアの泉」など多くの伝説的なテレビ番組にかかわる。作・演出家として2000年までシティボーイズのライブを手掛けた。映画も『イン・ザ・プール』(05年)、『亀は意外と速く泳ぐ』(同)、『ダメジン』(06年)、『図鑑に載ってない虫』(07年)と立て続けに公開。テレビ朝日系のコメディー・ミステリードラマ「時効警察」(06年)に引き続き「帰ってきた時効警察」(07年)でメーンの脚本・監督を務める。
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 《みき・さとし》1961年神奈川県生まれ。構成作家として「ダウンタウンのごっつええ感じ」「タモリ倶楽部」「トリビアの泉」など多くの伝説的なテレビ番組にかかわる。作・演出家として2000年までシティボーイズのライブを手掛けた。映画も『イン・ザ・プール』(05年)、『亀は意外と速く泳ぐ』(同)、『ダメジン』(06年)、『図鑑に載ってない虫』(07年)と立て続けに公開。テレビ朝日系のコメディー・ミステリードラマ「時効警察」(06年)に引き続き「帰ってきた時効警察」(07年)でメーンの脚本・監督を務める。
 
三木 一言で言うと「これをもう1回再現しよう」と思っても、できないだろうなという作品です。スタッフやキャストも含めて「映画全体が一期一会」というか、ここでしかできないなという感じです。『イン・ザ・プール』や『図鑑に載ってない虫』などは「再現性がある」というか、「ああ、やっぱりおれはこういうのが好きなんだ」と自分で思えるんです。でも『転々』に関しては、「なぜあのシーンを入れたのか」といったことが自分自身でも、あんまり明快じゃないんですね。だから、自分で見終わったときに「ああ、もう1回はできないな」と思ったんです。

細野 その感覚はよくわかります。僕自身の体験でも、自分の書いた本なのに読み始めると、つい入り込んで読み続けてしまうような場合があって、そういう本はミリオンセラーになったりします。これは、通常の自分の感性を超えているような完成度だからこそ生まれる現象だと思います。創作の世界では、自分でも意識しないようなひらめきを「神が降りてきた」といった表現をしたりしますが、まさに『転々』はそういう状況だったんですね。

三木 確かに、そういう意味でいろんなことがありました。どの要素が欠けてもダメで、ある種の恐怖というか、「これは絶対におれの力じゃないな」と思いながら撮っている感じはありましたね。

細野 とは言っても、やはり三木監督が緻密(ちみつ)に計算し続けた結果の完成度だとは思います。ただ、本作はこれまでの三木作品とは明らかに違って、「深み」というか作品の「幅」が大きく広がった気がします。僕は、経験値が増すことによって新しい三木ワールドの領域に入ったんだと思っています。

三木 確かに『転々』では経験によってテクニックは上がっているはずなので、その意味では「再現性がない」というのは不思議ですよね。ご指摘のように『転々』でちょっとやり方を変えたのは「見る人によっての許容(きょよう)範囲」を広くしてみたのです。


 見る人によっては
 小ネタでも悲劇に



細野 つまり同じシーンでも、人によって笑っていても、泣いていてもいい。その判断は観客にゆだねるってことですね。

三木 そうですね。例えば、奥さんを殺した福原(三浦友和)が神社で長く拝んでいるシーン。僕にしたら「長げえよ!」と突っ込みを入れたくなるようなコント的なシーンなんです。でも、人によっては「奥さんのことを思って拝んでいるんだ」と同情したりする。以前は、そうしたペーソス(もの悲しさ)の部分をあまり許さずに、「ギャグはギャグで走り切りたい」という思いがあったのです。でも今回はその許容範囲を広げて、「見る人によっては小ネタではなく悲劇だと受け止めてもいいや」と少しそっちも認めながら作ってみたんです。 
   
細野 恐らくそこが作品の「奥行き」をうまく構成できたんだと思いますね。そして、何と言っても質の高い「小ネタ」のオンパレード! まるで全編が小ネタで構成されているようでクスクス笑いっぱなしだったのですが、三木監督はどのように脚本を作っているのでしょうか。やっぱり、まず「小ネタありき」なんでしょうか?

三木 そうですね。お笑いの構成作家をやってきたので、まずは「小ネタ」から入ります。

 《ほその・まさひろ》日常よく目にする経済のニュースをわかりやすく解説した「細野経済シリーズ」の著者。『経済のニュースがよくわかる本「日本経済編」』(小学館)は経済本で日本初のミリオンセラーとなった。もともとは数学が専門で大学受験用『数学が本当によくわかる本』(小学館)は200万部を超える大ベストセラーに。最近は映画評論でも活躍が
 《ほその・まさひろ》日常よく目にする経済のニュースをわかりやすく解説した「細野経済シリーズ」の著者。『経済のニュースがよくわかる本「日本経済編」』(小学館)は経済本で日本初のミリオンセラーとなった。もともとは数学が専門で大学受験用『数学が本当によくわかる本』(小学館)は200万部を超える大ベストセラーに。最近は映画評論でも活躍が
 
細野 やはりそこは三木監督の最大の強みですよね。「映画において笑いは重要な要素」ということで、笑いに精通していない映画監督が無理にお笑いを入れてお寒いことになってしまう場合が本当に多いですからね。このところ邦画が勢いを盛り返してきていますが、この勢いが持続するためには三木監督のような新しい才能がどんどん映画界に入っていかなくてはならないと思っています。そして日本の場合は、その新しい才能を育てているのはテレビなのかなと思います。ハリウッド大作と比べると、製作費をはじめ規模的なものではどうしても限界があるなかで、日本の強さとは何かと考えると、やっぱりテレビだと思うんです。ドラマにしろバラエティーにしろ日本のテレビ番組の質の高さはたぶん世界トップレベルなのではないかと思うのですが、お笑い番組をずっと手掛けてこられた三木監督としてはどう思いますか。

三木 それと同じ感想を90年代の半ばに、あるデザイナーから聞いたことがあります。ニューヨークから日本に戻ってきてダウンタウンの番組を見て「なんでこんなシュールレアリスムみたいなことをゴールデンタイムでやっていることが可能なんだろう」と疑問に思ったというんですね。それは、一つには日本が単一民族だということがありますよね。共通のベースがあるので、コントをやる上で改めて共通認識を作らなくても済む。マンガもそうですし、テレビ文化にしても、ある程度、共通認識がある中で構築していけるので、テクニック的なことも含めて産業としての豊かさみたいなことは感じますね。例えば、フジテレビのコント番組を作るノウハウというのは、蓄積があるだけにすごいですよ。横縦比が4対3という狭いブラウン管の中に役者をどう配置するかを研究し尽くしている。ダメな局だと、しゃべっている人ばかり撮ってしまうのですが、実は、ボケ役がしゃべっているときに、横で聞いている突っ込み役の「おっさん、アホなこと言ってるなぁ」という顔がほしいわけです。テレビは毎週10本ずつというようなものすごい物量でコントを作り続けるので、それを演じる役者も作家もディレクターもすごく訓練されていくんですよ。

細野 三木監督の映画は、どの作品も小ネタが満載なんですが、ふだんの生活の中で、どのようにネタを探しているのですか?

三木 自分が買おうと思ったクルマを街でよく見かけるようになるのと同じだと思います。要は、常にそういう意識で日常を見ているわけです。この間も、街を歩いていて「ここに子猫を捨てた方へ、4匹の子猫は非常に残念な結果となりました」という張り紙を見つけました。「それは、お前が保健所へ連れて行ったんだろう」と言いたくなるけど、その「残念な結果」という言い方がおかしいなと思って記憶に残る。その蓄積ですね。

細野 三木監督作品の特徴として「笑いがわかりやすい」ということがあると思うのですが、今回の映画では、数点ちょっとわかりにくいシーンもありましたよね。例えば「月光仮面」が実は「石膏(せっこう)仮面」だった、というのは、説明を聞かないとわからない気もするのですが、そのあたりはどのような意図で作られたのでしょうか?

三木 そこはご指摘の通り、あえて咀嚼(そしゃく)しないで提示しているシーンもあるんです。映画は、ちょっとわからない部分があるくらいの方がいいと思うんですよ。

細野 なるほど。つまり、そこの引っかかった部分があるからこそ、ちょっと後まで引きずって記憶に残る作品になりうるわけですね。ますます進化して今後が楽しみな三木監督作品ですが、例えば大ヒットした「時効警察」の映画化など、テレビドラマの映画化についてはどのように考えられていますか?


 「時効警察」映画化
 実現の可能性は?



三木 これは、あくまで一般論ですが、テレビドラマと映画ではメディアの厳然たる違いが、きっとあるんだろうなと思いますね。当たるとか、DVDが売れるということで映画化してもいいんじゃないかと思う人が多いんですけど、もうちょっとキチンと厳選してジャッジをしておかないと失敗するんじゃないかと思いますね。

細野 要は「向き、不向きがある」ということですね。

三木 そうなんです。テレビドラマを映画化すること自体には僕は反対しないんです。だって、寅さんっていちばん最初のシリーズはもともとフジテレビのテレビドラマだったわけじゃないですか。「男はつらいよ」シリーズの中のワンキャラクターを伸ばしたのがフーテンの寅さん。違和感がなければ映画化は問題ないように思いますね。例えば「トリック」も、もともと東宝という映画会社の企画じゃないですか。だから映画会社の主導で始まって、テレビ番組でそれが当たったから、それを映画化する。これは、何ら流れとして不自然さがないんですけど、例えば「時効警察」の場合は、もともと僕とオダギリ(ジョー)君とで「テレビで遊ぼう」ってことから始まってるから、それを映画化した時点で本来の意味を失っちゃうのかもしれないですね。

細野 つまり一般に「映画というフィールドに持っていった方がいいもの」と「テレビで完結していた方がいいもの」があって、そこの選択肢はプロデューサーがキチンと見極める必要があるわけですね。『転々』のように骨太な完成度の高いものを作ることができるのであればいいのでしょうが、「無意味に予算をかけたコント」みたいになってしまう危険性をはらんでいるのかもしれないですね。


 「お笑い」で映画の
 敷居越えるには?



細野 さて、今回の『転々』も含めて「コメディー映画」についてなのですが、僕は根本的に「コメディー映画」は興行的に不利だと思っているんです。それは「笑いの敷居」という点からなんですが、例えば映画とテレビで同じギャグをやっても、全然その笑う度合いが違っていると思うんです。映画の場合はお金を払って見ているから、かなり気を張って見ることになるので、そのぶんすごく「笑いの敷居」が高くなってしまう。

三木 おっしゃる通りで、だから宣伝の仕方も大変なんですよ。「この辺が面白いですよ〜」とかってさんざん宣伝されたら、どこまで笑えるんだろうと、個人的には疑問に思うんです。だから僕は「面白いですよ」という提示の仕方はしたくないんですよ。例えば恵比寿にかつて「中華料理ボリューム」っていう店があったんですけど、「ボリュームだけなのかお前は!」って思うわけじゃないですか。でも、おじさんは「ボリュームは売りになる」と思っているじゃないですか。それは、笑わそうと思って「ボリューム」って書いていたら面白くないんだけど、そのおじさんは「これでお客が入る」と思っているところが面白いわけじゃないですか。テレビの場合はもうちょっとストレートに「これ面白いよ」って出しても大丈夫なメディアなんですけど、映画って??構え?≠ェあったりして、非常にデリケートなものなんですよね。

 
細野 実は僕も『転々』を最初に見たときには、やっぱり気を張りながら見ているというか、「どんな作品なんだろう」と分析しながら見ているので、そんなにケラケラ笑えなかったんですよ。ただ、2回目とか3回目とか、気を張らずに繰り返して見れば見るほど、もうおかしくてしようがない。ふつふつと込み上げる笑いの多さといい、本当に今まで見たすべての映画の中で一番笑えた映画なんです。「気を抜いて見る」ということがすごく重要だと実感しました。

三木 そういうふうに見てもらうのが理想なんですよ。気を抜いて、油断していてほしいわけです。   

細野 まさにこの映画が「東京散歩ムービー」とうたっているように、散歩のような気楽な気分で見ればいいわけですね。本当に散歩しているようなゆっくりした展開でありながら、テンポが絶妙ですよね。だから最後までまったく飽きることがない。そして、最後にオダギリさんの余韻のあるカットが出て、エンドロールが流れる。でもその後に「これが最後かよ!」って突っ込みを入れたくなるようなオマケの30秒映像があるわけですね。

三木 そうそう。なんでオマケがそのシーンなのかって(笑)。エンドロールが流れているときに、観客の皆さんが何を考えたり思いだしたりするのかなってことは非常に興味ありますね。映画と一緒にず〜っと散歩してもらって、見終わった後に抱く思いはきっと人によって違うでしょうから、それぞれが思ったことをそのまま劇場から持ち帰っていただければ、一番うれしいですね。


「転々」(10日公開)
©2007「転々」フィルムパートナーズ
©2007「転々」フィルムパートナーズ
 
 竹村文哉(オダギリジョー)は大学8年生。幼いころに両親に捨てられ、育ての父は逮捕されてしまった独りぼっちの男。いつの間にかこしらえた借金が84万円也。その返済期限の前日、借金取りの福原(三浦友和)から、借金をチャラにする方法を提案される。それは、福原の「東京散歩」に付き合うこと。ほかに選択肢のない文哉は、福原の提案に乗り、男2人の散歩が始まる。初日に福原から聞いた散歩の目的は、なんと「女房を殺したから、桜田門の警視庁に自首をしに行く」というものだった…。
 直木賞作家・藤田宜永の同名小説を原作に、三木聡が脚本・監督を手掛けた。小泉今日子、岸部一徳ら豪華キャストが脇を固める。



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