特集現在位置:ホーム > 特集 > 危機管理/コンプライアンス > 記事詳細
食品の安全確保
2008/3/3
印刷する- ブックマーク:
□日本危機管理学会理事長・原田泉
■トレーサビリティー確立急務
昨年の国内老舗食品会社の消費期限偽装、消費期限切れ原材料の使用などの不祥事は、食への信頼を大きく損なった。そして、今回の中国産冷凍ギョーザ事件である。当初、残留農薬の問題と報道され、現在では「食品テロ」ともいえる犯罪行為の究明へと向かっているが、一方では、他の冷凍食品の残留農薬問題も浮上している状況にある。
食の危機管理という面で、今回の事件は、国にとっても、企業にとっても、また個人にとって多くのことを示唆している。食料自給率が低い日本にとって、輸入食品の安全確保は至上命題であり、食品関係の企業にとってそれは、最優先に行わなければならない社会的責任でもある。
ここでは、一連の事件を、食品の安全確保と食品テロに対する企業の危機管理の面から考えたい。
まず、食品の安全確保の予防策だが、すでに中国での食品生産を行っている日系企業は多大の努力を重ねてきたと聞く。しかし、残留農薬問題は、中国自体でも大きな問題となっており、今後さらに生産農家に対して安全な農産物の生産技術指導や協力支援が不可欠である。
一方、食品製造に際しては、衛生管理の5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ+洗浄、制菌)の徹底を進めねばならないだろう。農産物・食品原材料の生産農家の農薬管理・指導はもちろん、流通過程での安全確認も必要となろう。そのための方法として、食品のトレーサビリティーの確立が急がれるところである。
食品のトレーサビリティーとは、生産から処理・加工、流通・販売の各段階で、食品とその関連情報を追跡または遡及(そきゅう)できることをいい、物流業務の効率化に加え、問題が発見された場合に食品の追跡・回収が容易になるなど、危機管理面での効果がある。個々の食品について、「いつ、誰がどのように生産し、どんな経路で流通してきたか」といった情報が商品に付けられた無線技術を利用した非接触型のICタグ(RFID)に自動的に書き込まれ、各段階での情報確認が行われるとともに、消費者が、店頭の読み取り機器やインターネット、携帯電話を使ってICタグに蓄積された情報をデータベースから引き出し、その食品の安全性を確認できるのである。
一方、緊急対策としては、こうした情報を基にした素早い商品回収はもちろんのこと、再発防止策の公表、情報公開が重要となる。いわゆるリスクコミュニケーションである。事前に緊急時のコミュニケーション計画を作成しておいて、基本的にはそれに従いつつ記者会見などを行うこととなる。また、日ごろから、行政、取引先企業、消費者などのステークホルダーと相互に意思疎通を図ることは重要であり、ホームページやマスメディアなどを利用し、自社製品に関する安全関連情報を公開しておくことはもちろん、緊急時に正確で迅速な情報が提供できるようなシステムをホームページにも準備しておき、あわてずに対応していくことが肝要である。
復旧対策としても、消費者の信頼を回復させるためには消費者は納得する対策をすばやく公表し、誠意ある姿勢を示すことが重要である。また、発生した事案の内容をよく分析し、その教訓をしっかり危機管理計画の改善へ結びつけていく、マネジメントシステムの確立も重要だ。
他方、「食品テロ」となると話は別である。食品メーカーやその流通企業、販売店にとっては、予防することが極めて困難な問題である。事故であれば、原因が分かれば防止策を立てることができる。しかし、悪意を持った犯罪となると、それを防止することは非常に難しくなる。日本でも「グリコ・森永事件」はいまだ犯人は捕まっていない。
予防策としては犯罪者にスキを与えないように、生産流通販売の各過程で抑止効果や捜査協力のための監視カメラの利用なども考えられ、また、恨みを持たれないような社内外の行動も必要となろう。
緊急対策や復旧対策は前述の安全確保と同様、リスクコミュニケーションが重要となる。また、企業の立場ではないが、国境を越えた日中間の捜査当局の協力も重要となり、こうした問題を話し合う定期的な協議の場が設けられることを希望する。
食品テロについては、「食品・農業バイオテロへの警告」(松延洋平著、日本食料新聞社)を参照していただきたい。
◇
【プロフィル】原田泉
はらだ・いずみ 慶大大学院修士課程修了。日本国際貿易促進協会などを経てNEC総研より国際社会経済研究所に出向。同主席研究員調査部長、早大非常勤講師などをつとめる。
「危機管理/コンプライアンス」のニュース一覧
- 日本危機管理学会理事長 原田泉/北京五輪(2008/3/31)
- エフシージー総合研究所情報調査部長 山本ヒロ子 不二家の風土改革(2008/3/24)
- 大和総研経営戦略研究所主任研究員 大村岳雄(2008/3/17)
- 経営倫理実践研究センター専任講師 萩原誠(2008/3/10)
- 食品の安全確保(2008/3/3)
- 長谷工コーポレーション(2008/2/25)
- リスク管理の現状 大和総研経営戦略研究所主任研究員・大村岳雄(2008/2/18)
- 業界ぐるみの再生紙偽装(2008/2/4)
- 企業の感染症対策 時系列3局面で計画を(2008/1/28)
- 静岡県の戦略的広報(2008/1/21)






