ドンキ流 商店街の挑戦 個人にフロア開放、付加価値品“同居”
2009/11/24
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「激安の殿堂」をうたう大手ディスカウントストア、ドン・キホーテ。その名の通り、業界最安値の690円のジーンズを発売するなど、安さへのこだわりは健在だ。そのドンキが安さを追求しない新たな試みを静かにスタートさせている。未曾有の不況下で増収増益を続ける同社の新たな動きは、安売りに走る小売業界に新風を吹き込むか。(小熊敦郎、兼松康)
◆破格の条件で出店
「いらっしゃい、いらっしゃい」−。
威勢のいい呼び声が響くのは、生鮮食品も扱う総合スーパー型ディスカウントストア、MEGAドン・キホーテの函館店(北海道函館市)。子会社化した長崎屋から業態転換して10月9日に新装開店したが、最大の売り物は地下1階食品売り場に軒を連ねる全国初の「熱血商店街」だ。
熱血商店街は、総菜や青果、鮮魚、精肉店など独立・開業を目指す個人に破格の条件で出店を支援するドンキの新規事業。東京・アメ横や築地場外市場のような活気あふれた「未来型商店街」を創設するのが狙いだ。自らの起業時に潤沢な資金を容易に借りることができず苦労した安田隆夫会長の肝いりで始まったプロジェクトでもある。
コンテストに勝ち抜いて出店を認められた人は、開業後半年間の賃料が無料になり、設備や調度品のリースに必要な融資も連帯保証してもらえる。さらに半年後も1坪(約3.3平方メートル)当たり1万円という破格の条件で借りられる。
第1号となった函館店の「熱血商店街」は、総菜や青果、鮮魚店など計12店で構成。ドンキに「あまりの売れ行きに、仕込みの時間が足りない」といううれしい悩みの声も出店者から寄せられているという。
「各店とも順調な滑り出し。開業1カ月強ながら、1対1での商売で少しずつだが顧客に『絶対にここで買う』と言ってもらえるようになってきた。目を見張るほどの売り上げはまだないが、この動きが広がれば、さらに伸びるはず」
出店した各店舗について、ドンキ広報部はこう説明する。
◆来店促す狙い
熱血商店街の狙いは、出店機会に恵まれない人をサポートするだけではない。出店した各店は、ディスカウント店舗内にありながら自由に価格を設定し、付加価値路線を突き進んでいいことになっている。
これは安売り商品と高付加価値商品が共存することを意味する。ディスカウントストアのドンキにとって高付加価値品は未知の領域だ。双方のニーズを満たし、多くの消費者に来店してもらう。ドンキの最大の狙いはここにある。
12店舗の中でも好調な販売を続けている「八百ねっと」。地場の農家直送農産物やその加工品などを販売する同店は、10月9日のオープン初日に、目の前でMEGAドン・キホーテ直営部門が目玉商品のキャベツを88円で売っていたのに対し、割高なキャベツを店頭に並べた。しかし、売れ行きは順調だったという。現在では固定客も多くついており、店主の高坂重勝さんは「値段の安さで商品を選ぶ人がいる一方で、うちのような農家直送の安心感や品質の良さで選んでくれる方も必ずいる。今は一人でも多く、店のファンを作る時期です」と話す。
ドンキでは「顔の分かる農家が作った野菜には安心感がある。消費者は自分の価値観に見合うものがあれば、財布のひもを緩める。安売りだけが売れるのではない」と説明する。
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■安売り傾倒 業界に一石
「熱血商店街」のもう一つの狙いが店舗全体の活性化だ。ようやく願いがかなって“一国一城の主”になった出店者の熱いモチベーションが、周囲の店のみならず、MEGAドンキ全体に波及するとの期待がある。熱血商店街事業本部の白濱満明本部長は「ほとんどの出店者はお客さんが応援したくなるような要素を持っている」と評する。
活性化し続ける“仕掛け”もつくった。出店者は未来永劫(えいごう)、出店し続けられるわけではない。開業半年後に業績が悪ければ、退店を余儀なくされる。白濱本部長は「出店者の入れ替えもあり、次の出店候補者もどんどんエントリーしてくる。安心している暇はない」と語る。
ドンキは、函館店に続き、別のMEGAドン・キホーテ店舗にも「熱血商店街」を広げる考えを持っている。今月28日には、埼玉県三郷市のMEGAドン・キホーテ三郷店(埼玉県三郷市)に、2つ目の「熱血商店街」をオープンする。
三郷店はMEGAドン・キホーテの中でも、最も売り上げの多い店舗で、近隣にはイトーヨーカドーや今年、JR新三郷駅前にできたばかりのららぽーとなど、多くの商業施設がひしめく。「函館と異なり、新興住宅街特有のドライさもあり、どれだけの固定ファンをつけられるかが課題」(広報部)になりそうだ。
政府が「デフレ宣言」をし、小売り各社は節約志向の消費者に振り向いてもらおうと、低価格競争を繰り広げる。だが、売り上げや来店客数の増加になかなかつながらないのが実情だ。安売りだけでなく、個人商店主のパワーを借りて高付加価値品も取り込むドンキの動きは、異彩を放つ。この試みの行く末は未知数だが、閉塞(へいそく)感漂う小売業界に一石を投じるのは間違いない。
◇
■リピーター獲得 店主の腕が勝負
「熱血商店街」の成否を握るのは、出店する商店主の腕によるところが大きい。
鮮魚店「洋々美徳」の店主、林明美さんは、奥尻島で人気のペンションを経営していたが、そのペンションを畳み、「熱血商店街」の商店主に応募し、合格した。漁業権を持っており、イカやウニなどの新鮮な海の幸を提供できるのが売りだ。
林さんは「近くに対面販売で魚介類を扱っているところがなく、固定客が多くついてくれた」と手応えを話す。
不況のあおりから、北海道内では百貨店の閉鎖・撤退が相次いでいるが、焼き鳥店の「鶏工房」を経営する中村亮さんは、2007年10月に閉店した北見市の「きたみ東急百貨店」で焼き鳥店のテナントを営んでいた。ドンキの熱血商店街を「ラストチャンス」と応募し、見事、出店にこぎ着けた。
中村さんは「この商店街で生き残るために、試用期間の6カ月で、リピーター客を確実につけておきたい。クリスマス商戦が勝負になる」と気を引き締める。
「以前から人の流れは多かったが、プラスアルファの効果が出ている」。函館市経済部商業振興課の阿部貴樹課長がそう分析するように、さまざまな顔を見せる12人の店主らを集結させたドンキの新たな試みは、疲弊する地域経済の活性化という面でも貢献しそうだ。
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