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エジプト 鳥・新型インフル同時流行懸念 貧困層への予防教育急務

2009/5/27

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ニューヨークからカイロ空港に到着した米国人観光客に質問するエジプトの検疫官(左)=18日、カイロ(AP)
ニューヨークからカイロ空港に到着した米国人観光客に質問するエジプトの検疫官(左)=18日、カイロ(AP)

 新型インフルエンザが世界的な広がりを見せるなか、エジプトでは鳥インフルエンザとの同時流行の懸念が高まっている。最悪の場合、ウイルスの突然変異が起こり、鳥インフルエンザの大流行を引き起こす可能性もある。にもかかわらず、同国の衛生当局の対策はずさんを極める。国民にインフルエンザの予防教育を徹底して、貧困層の劣悪な生活環境や、家畜・家禽(かきん)の飼育方法を改善することが緊急の課題だ。

 【分析】

 エジプトは、アジア以外では最大の鳥インフルエンザ発生国だ。2006年以降70人の感染が報告され、そのうち26人が死亡した。最近では4月24日に死者が出ている。

 当初、感染者の年齢層は分散していた。しかし今年の報告によると、感染者の多数がウイルス感染を防ぐ免疫系が未発達な3歳以下の乳幼児だった。これを受けて衛生当局は、ウイルスが変異して毒性が弱まり、この結果、逆に感染力が強まったとの仮説を立てた。

 これまで鳥インフルエンザの流行が限定的だったのは、致死率が高いために、逆に感染の拡大が抑えられたからだ。パンデミック(世界的大流行)の可能性を考えるうえで、ウイルスの毒性の変化は極めて大きな意味をもつ。現時点ではウイルスの変異は確認されていないが、エジプト政府とWHO(世界保健機関)は、ウイルスの潜伏状況の調査に乗り出している。

 今のところ、エジプトでは新型インフルエンザの感染例は報告されていない。しかし、鳥インフルエンザの流行が確認されていることから、新型インフルエンザの流行も潜在的な脅威だ。2種類のウイルスの間で、遺伝子交換が起こる可能性はある。

 エジプト社会には、鳥インフルエンザ流行拡大のリスクを高める多くの要素が潜んでいる。イスラム教徒の多いエジプトでは、鶏などの家禽類が主なタンパク源だ。同国の典型的な食生活では、タンパク質の43%を鶏肉から摂取するという。同国で家禽類を飼育する農家は約500万軒に及ぶ。特に農村部で一般的だが、都市部にも広く浸透しており、鳥と接触する機会は多い。

 同国政府は、鳥インフルエンザに対して敏感になってきてはいるものの、技術的専門知識は外国の援助に頼らざるを得ないのが現状だ。米国のUSAID(国際開発局)は、FAO(国連食糧農業機関)との協力のもと、鳥インフルエンザの検出と対応を強化するための組織(SAIDR)を設立した。こうした努力によって、エジプト衛生当局による鳥インフルエンザの検出率は向上し、大流行への備えは徐々に整いつつある。

 ◆劣悪な衛生環境

 しかし、同国の抱える文化的・宗教的な問題がインフルエンザ対策に与える影響は払拭(ふっしょく)しがたい。

 エジプト政府にとっては、目下の鳥インフルエンザよりも、将来的な新型インフルエンザへの対策のほうが政治的に取り組みやすいといえる。多数派のイスラム教徒にとって豚は不浄な存在であり、タブー視されているからだ。

 エジプトの衛生当局は4月30日、新型インフルエンザ封じ込めのために、豚の全頭殺処分を始めた。当局は、これは一般的な保健対策であり、人口過密地帯における無秩序な豚の飼育を是正するための措置だと説明しているが、養豚農家からは激しい反発の声が上がっている。

 同国の養豚農家の大半は「ザバリーン」と呼ばれるキリスト教系のコプト教徒の人々で、エジプト社会の底辺に位置している。彼らは宗教的に豚肉を食べることを許されているため、他のエジプト人が鶏を育てるのと同じように豚を飼育してきた。彼らの多くはカイロ市のスラム街に居住し、養豚とあわせてゴミ収集を生業としている。

 彼らは集めた生ゴミを天日干しにして燃料として売るほか、豚の飼料として利用するなどして生計を立てている。こうしたザバリーンのライフスタイルには、人、豚、鳥の接触があり、さらには人口が過密で劣悪な衛生環境の中で暮らしている場合が多い。しかも今回の豚殺処分命令に対し、生活の苦しい農家のなかには豚を処分せずに屋内にかくまう者も出てきた。彼らの居住区では、人と動物に共通して感染するウイルスが発生し、それが人の間で容易に伝染する形に変異するリスクが高まっている。

 ◆根強い宗教差別

 主流派のイスラム教徒の間には、ザバリーンに対する差別が強く残っている。今回政府が発令した豚の殺処分命令にしても、当初は農家への補償が掲げられていたが、議会の反対で撤回されたようだ。この政策は、新型インフルエンザ対策というより、豚を飼育するザバリーンや他のキリスト教徒への嫌がらせに近いといえるかもしれない。

 国連のさまざまな機関がこの政策を批判し、新型インフルエンザから人間や動物を守ることにはならないと指摘している。

 もしエジプト政府が新型インフルエンザ予防に的を絞るとすれば、鳥インフルエンザの監視と対策がおろそかになる危険が高まる可能性がある。どんな種類にせよ、エジプトでのインフルエンザの流行を防ぐためには、まずは国民の教育が必要だ。従来の家畜の取り扱いを改める必要があるし、インフルエンザの発見方法も改善しなければならない。

 【結論】

 エジプトで鳥インフルエンザの感染者数が減らないことや、感染の傾向が変化していることは、それ自体憂慮すべき問題ではある。しかし新型インフルエンザの発生によって、事態は一層深刻化している。豚の殺処分は一般的な手法だが、その効果には疑問が残る。同国政府には、貧困層の劣悪な生活環境や家畜の飼育方法を改善し、国民に対する予防教育を推進することが求められる。

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