【かぶく心】正月風情にあふれた初春狂言 歌舞伎十八番『助六由縁江戸桜』

2008/1/10

 ■稚気あふれる団十郎

 □小気味のいい悪態が江戸っ子気質に

 羽根つきも凧(たこ)揚げも見られなくなったが、歌舞伎座の場内は正月気分にあふれている。トザイ(東西)、トーザイの声で現れた市川段四郎が「古風な狂言でございますので、おうようなご見物のほどを…」で始まるのがご存じ、歌舞伎十八番『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』。(小田孝治)

 段四郎がわざわざ「古風な狂言」と言ったのは初演が正徳3年(1713年)、295年前になる。その後練り上げられて今日にいたったが、江戸っ子のチャンピオンたる助六の生気ハツラツとした気分、登場人物たちの雰囲気を理屈を超えて味わってほしいと言う呼びかけである。

歌舞伎十八番の『助六』。団十郎の助六と福助の揚巻。うしろの格子の中で河東節連中が演奏する
歌舞伎十八番の『助六』。団十郎の助六と福助の揚巻。うしろの格子の中で河東節連中が演奏する
 
 助六は市川団十郎。出番までが45分間と長い。その間、格の高い遊女の揚巻(あげまき)(中村福助)のほろ酔い加減の道中の後、敵役の意休(市川左団次)が遊女の白玉(片岡孝太郎)の後ろから子分を引き連れて出る。意休が助六の悪口を言うと揚巻が悪態をつく。

 「深いと浅いは間夫(まぶ)と客、間夫がなければ女郎は闇、暗がりで見ても助六さんと意休さんを取り違えて、マ、よいものかいなア…」

 小気味のいい悪態が江戸っ子の気質に合ったのだろう。意休は武士だから庶民は喝采(かっさい)したにちがいない。福助は揚巻が初役。せりふが明快。もう少し突っ込んでいいくらい。なにせ位と貫禄(かんろく)のいる大役である。

 長い“前奏曲”があって、「待ってました」と助六の登場。花道の出が浮き立つようで還暦を過ぎた人には見えない。古浄瑠璃の河東節(かとうぶし)に乗せて花道で踊る。助六は曽我五郎だから、はちきれんほどの若さと稚気。難病を克服した団十郎は若返ったように見える。

 くわんぺら門兵衛(段四郎)、朝顔仙平(中村歌昇)、福山のかつぎ(中村錦之助)らが登場。門兵衛らを威嚇した後、白酒売り新兵衛に身をやつした兄の十郎(中村梅玉)が出て助六にケンカの仕方を教わり、助六とともに出会った相手にまたをくぐらせる。通人の中村東蔵が流行語や香水などを使って笑わせる。助六の悪態も痛烈。

 「つがもねえ(とんでもないの意)」

 「大どぶへさらい込むぞ、鼻の穴へ屋形船を蹴込むぞ。こりゃまた何のこったエ」

 バカバカしい誇張したせりふが雄弁術の聞かせどころ。観客が留飲を下げる。やがて母の曽我満江(中村芝翫)が出て助六にケンカ封じの紙衣(かみこ)を与える。これを着ると身動きがとれない。助六は威勢のいい荒事風から和事味が濃くなるという大役である。

花道で踊る助六の団十郎
花道で踊る助六の団十郎
 
 舞台が江戸期の歓楽街、新吉原の三浦屋格子先というのは登場する役者が多く出られるという配慮もあっただろう。その中でも重要なのがヒゲの意休。左団次の意休は貫禄があって若い助六をしっかり受け止めている。

 冒頭の口上で段四郎が赤い格子の中にいる河東節連中に「では、お始めください」とあいさつしたように、市川家の『助六』には昔からだんな衆らがけいこを積んで伴奏音楽をつとめてきた伝統がある。政財界人は減ったが、今回も医師、呉服屋のだんな、料理屋店主ら157人が交互に出演している。

 役者はもちろん衣装、小道具、音楽に至るまで粋と贅(ぜい)をこらした正月風情にあふれた初春狂言。残念ながら紙数が尽きたため、他の演目を紹介できなかったことをおわびします。

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